LOVE SICK
社内恋愛は、本人たちが隠しているつもりでも周囲は気が付いている事が多い。


それまで仲が良かった筈の二人が妙によそよそしく一定の距離を保とうとしていたり、それまで尊敬を露わにしていた筈なのに、周りに合わせてちょっとした愚痴をこぼしたりする瞬間。
何となく違和感を覚えるのがきっかけだ。

そうして少し気になって見ていれば次々に気になる所が出てくる。
一定の距離を保っているくせに、自分よりも情報が早かったりとか、上司にしか話していない失敗を犯して落ち込んでいる絶妙なタイミングで同僚が愚痴をこぼさせてくれたりとか……


だから俺、田嶋圭介は半年以上前、年度末の朝礼で当時の支店長言葉を「だからか」とか「勘弁しろよ」とか思いながら聞いていた。



――斎木の結婚が決まったぞ。相手は高田商事の担当者だぞ。



ここ最近、同僚が酷く荒れていた理由が判明し、思わず俺は彼女に顔を向けたしまった。

賛辞の野次が飛び交う浮かれた社内で、彼女は目を見開いて放心していた。
心ここにあらずといった風で、周りに合わせて力なく拍手をしていた。
いや、ただ条件反射で手を叩いていただけなのだろう。

今そんな顔してちゃダメだろ。気が付かれるぞ。
そう思ったけれど、喝采する他の社員の目は全て斎木支店長に注がれていて、あの瞬間彼女に目を向けたのは既に二人の関係に気が付いていて、それでも口を閉ざしてきた社員だけだっただろう。

それに彼女にとってはもう、斎木さんは二人だけの秘密を共有する親密な仲ではなく自分を裏切った嫌悪の対象であって隠す必要は無くなっていたのかもしれないとも思った。

ただ単に落ち込みすぎて、繕うこともできなくなったのだろうが……


どっちにせよ、やりにくくなるな、そう思った。
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