婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
私と瑞希は俯きながら黙々と食事を食べる。気づかれて絡まれる前に席を立とうという考えが、互いに以心伝心で通じ合っているようだ。

「匠、テストどおだった?」連れの田中が尋ねる。

「出来たな。安心して夏を満喫出来る」

久しぶりに聞く婚約者の声に不覚ながらも胸が高鳴る。

「今年も彼女と海外旅行に行くのか?」藤原が尋ねる。

「うーん、絵梨が親とヨーロッパに行くらしくて予定が合わないんだよね」

その名前を聞いて、心臓が激しく脈打つ。瑞希もハッとした表情でこちらを見ていた。

「じゃあ俺らと行くか!ThaiLand!」陽気な藤原の声が妙に腹ただしい。

「行かねーよ。男同士で行ったってつまんねーだろ」友人と一緒に話す葛城はいつもより砕けた話し方だ。

「じゃあ、純潔女でも誘えば?」田中が抑揚のない話し方で言う。

「やだよ。遥はガキだから一緒にいてもつまんない」

その一言だけで呼吸が止まりそうになる。心臓にとどめを刺された気分だ。

胸が苦しくなり、涙が零れそうになった。

だけど今ここで泣いたら一生の恥だ。

私はテーブルに乱暴に手をついて、席を立つ。

葛城と連れの二人は目を大きく見開き呆然と私を見上げている。

「悪かったわね!ガキで!」

私に怒鳴りつけられて葛城は阿呆のように口をポカンと開けていた。

「行こう、瑞希」

「う、うん」瑞希はドリアを食べ掛けている途中だったけど私の迫力に圧倒され慌てて、席を立った。

持っていたトレイを食器の返却口に返すと無言のまま私はカフェテリアを後にする。
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