婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「大丈夫?はるか」

瑞希が顔を曇らせて後ろからパタパタ着いてくる。

「うん、大丈夫だよ」平静を装い笑って見せるが、顔が引き攣り自分でも変な顔してるのが解る。

「遥…」瑞希が心配そうに眉根を寄せる。

私を気遣ってくれる優しい友人の顔を見ていると、喉までこみ上げて来ている物が堪え切れなくなりそうになる。

「わ、私、バイトだから、そろそろ行くよ」

「わかった。合宿の前に買い物行くでしょう?」

「うん、後でLINEするね」私は早口で捲し立てた。


逃げるように瑞希と別れると、早足で最寄りトイレへ駆け込んだ。

お腹が痛かった訳じゃない。

痛いのは心、だ。

個室に入り鍵を掛けると堪え切れずに涙が頬を伝って落ちた。

「遥はガキだから一緒にいてもつまんない」

葛城の台詞を思い出すと胸が苦しくなる。

友人との話の中でフト出た些細な一言だったかもしれない。

だけど人から、自分を否定される事に免疫がなかった私には充分過ぎるくらいショッキングな一言だった。

便座に座り込むと、うずくまってしゃくりあげる。

葛城といると、強引で振り回されて、イライラして、わくわくして、ドキドキして、自分にもこんな感情があったのか、と意外な発見の連続だ。

出会ってから私の穏やかで堅実で、それでいて少しだけ退屈な生活が一変した。

だけど、それは葛城にとってはツマラナイ時間でしかなかったようだ。

あんな人が婚約者にならなければ、こんな想いをしなくてもよかったのかな。

私はトイレットペーパーで鼻をかむ。

それでも、家の借金があるので私には逃げ場なんてない。

一生ツマラナイ女として負い目を感じながら、葛城の側で生きて行く事を考えると、惨めでまた泣けてきた。

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