今度こそ、練愛

ようやく事務所から出てきた山中さんは、真っ先に私たちの所へ来てくれた。ちょうど坂口さんは岩倉君のエスコートで花を見ているところ。



山中さんがカウンターに肘をついてもたれかかった。優しい目で私たちの作業を見つめる。



「何を作ってるの?」

「ショーウィンドウに飾る花を作ってるんです、展示会の準備で手が回らなかったから、そろそろ新しい花をと思ったんです」



きりっとした表情で仲岡さんが答えてくれるから、私は山中さんの顔を見つめていられる。



「今度はオレンジ色がベースだね、頑張って、楽しみにしてるよ」



と言うと、急に山中さんが振り向いた。目が合いそうになって慌てながらも、お礼を言う仲岡さんとともに頭を下げる。



ふうと息を吐いて顔を上げると、山中さんと目が合ってしまった。穏やかな笑顔で見つめられたら胸が苦しくなってくる。



山中さんでも川畑さんでもいいから、もう一度チャンスがあったなら……と願わずにはいられない。



ちくりと刺さる視線に気づいて振り向いたら、坂口さんが私を睨んでいる。展示会の会場で見たのと同じくらい怖い顔をして。
傍に居る岩倉君は素知らぬ様子で、坂口さんに花を説明しているようだ。



睨み返そうかと思ったけどやめた。
そんなことしても虚しくなりそうだから。





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