今度こそ、練愛
「お疲れ様、忙しそうだね」
柔らかな笑みの山中さんに、ほっとさせられる。
「お疲れ様です、やっと落ち着いたところです」
「大変だったね、いい接客だったよ。会場の花も素敵だった」
「ありがとうございます」
至近距離で見つめられたら、やっぱり恥ずかしい。視線を避けるように一礼すると、駆け寄ってくるヒールの音が聴こえてきた。
恐る恐る顔を上げたら、山中さんの後ろから駆けてくるのは坂口さん。
「万里、もう入っていいの?」
強い口調で問いかけて、山中さんの腕を引き寄せた。さらに私に見せつけるように、ぎゅうっと腕にしがみつく。
「ああ、落ち着いたよ」
「早く入って、用事を済ませてよ」
静かに答える山中さんの手を引いて、坂口さんは店へと入っていく。
まともに見せつけられると、やっぱりショックだ。
山中さんと高杉さんが一緒に事務所で打合せをしている間、坂口さんはお客さんのいなくなった店内を散策中。つんとした顔で口を尖らせて店内を見回しては、時々目を細めてカウンターにいる私の方を睨む。
「嫌な感じね」
「今までにも来たことあるんですか?」
「あるけど、私は今日で四回目」
仲岡さんと私はカウンターで息を潜めていた。ショーウィンドウに飾る花を製作しながら、坂口さんが早く帰ってくれることを祈りつつ。