今度こそ、練愛

「残りの窓も同じように拭いてね」

「わかりました」



前の職場でも客先を相手にしていたけれど、客先の意味がちょっと違う。
なかなか接客業というのは難しいものかもしれない。



店の外の掃除を済ませたら、次は店内の掃除。
高杉さんは店内で忙しく動き回りながら、今朝仕入れてきた花を仕分けている。



掃除だけでも結構な肉体労働だ。思っていたよりもキツくて気を遣う。
だけど楽な仕事なんてない。
まだアルバイトだけれど、いずれは正社員として働くために頑張ろう。




「掃除終わりました、次は何をしたらいいですか」

「ありがとう、掃除道具を片付けてきたら、こっちに来て花の仕分けを手伝ってもらえる?」

「はい、わかりました」



やっと花を触ることができるのかも、と期待したのもつかの間。高杉さんが何か思い出したような顔で呼び掛ける。



「ちょっと待って。こっちに来る前に事務所の私の机の上に置いてあるファイルを持ってきて、オレンジ色の薄っぺらなファイルだから」

「了解です、オレンジ色ですね」



もしかすると高杉さんは人使いが荒いのかもしれないと思いつつ、私は急いで店の奥へと向かった。

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