食人姫
少しして父さんに起こされて、哲也の親父さんに腕を掴まれた俺は、神輿が鳥居をくぐるのを見ている事しか出来なかった。


儀式が始まる……だけど、麻里絵を助ける時間は明日まである。


どうにかして、麻里絵を助ける方法を考えないと。


この指さえあれば、夜の闇に紛れて動く事だって出来る。


「これで良いんだ。仕方ない事だからな。これでお前達は……麻里絵に守ってもらえるんだ」


親父さんの言葉は、俺に「諦めろ」と言っているように聞こえる。


鳥居をくぐったら儀式が始まる……そう言ったのは、これで終わったと思わせる為だろう。


小谷実香のノートを見て、あんなに涙を流したくらいだから、親父さんもきっと33年前に何とかしようと思ったに違いないのに。


「俺、家に帰る」


親父さんの手を振りほどき、神社に背を向けて歩き始めた。


昨晩の事から、少なくとも俺と哲也は監視されると考えた方が良い。


だからと言って光や由奈に動いてもらうと危険が伴うし。


また、爺ちゃんに銃を突き付けられないとも限らないから。


巫女の神輿を見送った谷の人達も、それぞれの家に向かって歩いて行く。


その中で、哲也はまだ怒っていて、大人二人に押さえられていた。
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