如何にして、コレに至るか

先ほどから思い描く“誰か”。

“誰か”となるからには、正体不明でなくてはならないけど、私にはある人物が上がっていた。

記憶がなくなる以前、宮本さんとのデート中に起こったあの出来事だ。

付きまとっているという、あの男性。
警察に行こうと言う彼に、そんなことはないと物見遊山をした自身が恨めしい。

大学内でよく見かけた。同じ学生なら当たり前のことだけど、それでも他に思い当たる節がないんだ。

こんなことをする人物。
彼や私に付きまとっているというあの男性。

彼は大丈夫だろうか?
その不安は、ずっとある。

彼の言うとおりに警察に相談していれば、こんなことにならなかったんじゃないか。そうして、もうしかしたら、彼もあの男に何かされているんじゃないのか。

彼も彼で身長があって、体格はいいけど、あの男性はそれ以上だ。縦にも横にもある体格は並大抵のことでは太刀打ち出来ない。

「行かなきゃ……」

私が何とかしなければと、足が動く。
玄関から一階の廊下。最初にいた部屋を通り過ぎ、まだ見ぬ部屋の扉も通り過ぎ、分厚いチョコレートのような扉の前へ。

ここがつき当たりかと思ったが、左手側が少し奥まっていて、もう一つ扉がある。

乾燥させたラベンダーのリースが飾られ、明かりで人の有無を確かめる明かり窓があるともなれば、トイレで間違いないだろう。

明かりが点いていないため、覗いて見る。電気を点けずとも、脱出するための窓が天井近くにあるのが分かった。どう見積もっても、私が通れる大きさじゃないことも。


駄目かと、当初の目的に戻る。
チョコレートのような扉の枠部分には硝子が埋め込まれている。途中にあった部屋を素通りし、こっちを選んだのは、硝子から中を見れると思ったからだ。

かがみ、中に誰もいないのを確認する。
魚眼レンズのような、丸まった視界の先の部屋は、ダイニングキッチン。

家の作りからして妥当な間取りだろう。
ダイニングには、机が一脚と椅子が四脚あるのが伺える。キッチンはカウンター式で、それ以上は位置関係からはっきりとは分からない。

大ざっぱに見て誰もいない。開放的な空間だから、大ざっぱでも問題ないと思うけど、気になることがあった。

「何の、音?」

この家で、初めて聞いた音。
ごおぉと、すきま風にしては大きな音がした。

風のような音で括られるが、出所が分からない以上警戒する。

けれども、いつまでもここにいられないと、扉を開けた。ゆっくりと、中に入る。


思った通りに誰もいなく、警戒の種たる音の出所は、入ってすぐ横にあった。

扉からの死角になっていたものだから気づかなかったけど、空気清浄機が稼働していた。

脱臭、除菌、ハイパワーの項目に緑のランプが点灯していた。

誰もいないのにつけているなんて、もったいない気もしたが、すぐに撤回する。

酷い、匂いがした。
鼻を塞ぐほどではないが、顔をしかめてしまう臭い。

モデルルームのように綺麗に整頓されたダイニングには何もない。なら、キッチン。カウンター式のそこに、腐った物でも置いてあるのだろうか。

行きたくない。けど、キッチンには勝手口がある家もある。匂いぐらい、我慢すればいいと足を運んだ。

ーーそれだけのことで、後悔する。

「ひっ」

腐った物が置いてある。
それは正しい。けど、キッチンの床が見えないほどに置かれたゴミ袋は予想の範囲外だった。

思わず後ずさる。壁に背をつけ、そのまま硬直してしまった。

尋常じゃない量だった。両手で数えても足りないゴミ袋の数。ただ、ゴミ屋敷のそれとはどこか違っていた。

差はあれど、袋にはパンパンにゴミが詰まってはいない。半分か、八分目の物が丁寧に並べられ、積まれていたとしても、崩れないよう置いてある。

何よりも異質なのは、キッチンにもう二台空気清浄機が置かれていたこと。当たり前のように稼働している。ゴミ袋があるのも異様だけど、この空間だけで、計三台の空気清浄機があるのが不可思議だった。

これらがあるからこそ、匂いがだいぶ軽減されているのだろうけど、匂い対策をしているなら、捨てればいい。

何か、捨てれない理由でもあるのか。

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