【完】一粒の雫がこぼれおちて。





本来なら、こんな名前も姿も知らない奴の家なんて、行くはずがない。


まず、話すことさえない。



それなのに。


「……家、どこ?」



そう、返事をしたのは。



落としていった携帯を倉橋に返すためか。


〝大ちゃん〟とやらの言葉に誘われたからか。



それとも。


……単純に、コイツと倉橋の関係が知りたいからか。



僕には、よく分からない。



「4丁目だ。迎えを寄越す、ソイツについて行けばいい。」



相手はそう言って電話を切った。



携帯は通話終了の画面になって、でも直ぐに元の待ち受けへと切り替わった。



自分で撮影したのか。


待ち受けは、いつも僕たちが昼食を済ませる中庭の写真だった。





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