〜花魁〜
しばらくして貴史が戻って来ても、自分で作った居心地の悪い空気は拭えず…
『俺…帰るわ。』
「えっ、もう帰るん!?今日、実家帰らんのや…。」
そう言った貴史の言葉も無視して、財布から無造作に抜き取った札を、テーブルの上に置いて店を後にした。
一歩、外に出ると…頬を刺す冷たい風が、興奮した頭を冷やし、少しだけ冷静になる
駅に向かって歩いていると、来る時も見えた噴水が目に入り…思わず足が止まった。
昔、ここの噴水で空が来るのを待っていた事がある…
周りには沢山のカップルがいて…めちゃくちゃ居心地が悪かったのを思い出した。
駅前を見渡すと、空と良く行ったカラオケに
無理矢理プリクラを撮らされたゲーセンに
いつも待ち合わせ場所にしていた、全国チェーンの某ファーストフード
ドコを見ても、この場所は空を思い出す…
ドコを見ても、この町には空がいる。
『チッ…。帰ろー…』
自分でも気付かない内に避けていた地元…
当分、来る事はないだろう…
そう思って電車に乗り込んだ。
.