Symphony V
はい、と目の前にクロワッサンを差し出される。唯は複雑そうにそれを見つめながら、手に取った。

「けっこうおいしいぜ?それ」

にっこりと笑うレオンに、唯はドキッとする。一口かじると、さくっとした食感の後に、ふわっとした感覚が口の中に広がった。

「あ、おいしい…」

「だろ?」

なぜか得意気な顔をするレオンに、唯はくすくすと笑った。


一息ついたところで、唯は思いきってレオンに聞いてみた。

「あの…実は私、なんでここに居るのか、よくわかんないんですけど」

困ったような表情でレオンに聞くと、レオンはあぁ、と笑いながら答えた。

「わからないはずだよ。だって、唯。昨日カラオケの最中に寝ちゃったんだから」

レオンに言われて、思わず目を見開いた。

「うそだぁ…?」

カラオケボックスなんて、常に音が至るところで鳴り続けていて、静かさとは無縁の場所だ。まさか、そんな中で、寝るはずはない。

……と、思いたい。

「ホントだって。稜夜が、唯のお母さんに電話してたし」

一気にさぁっと血の気が引いた。

「いいお母さんだね。ご迷惑をおかけしますって言ってたよ?ちゃんと俺や稜夜のことを信用してくれた」

レオンがそう言うと、唯の頭の中にふと、1つの疑問が浮かび上がった。

「そういえば、稜夜先輩は?」

「ああ、稜夜も一緒に泊まる予定だったんだけどね。電話がかかってきたみたいで、あわてて帰ってったんだ」
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