彼と彼女と彼の事情


雨で濡れたせいだろうか。

それとも涙のせいだろうか。 

反対側の座席の窓に映った私の顔は、見事にメイクも剥がれ、ぐしゃぐしゃの醜い顔だった。


ハンドタオルで顔を覆っている間も、さっきのシーンがフラッシュバックされて

恐怖におののくように、身体の震えが止まらなかった。

あのまま車を降りることなく話を続けていたら、隼人と別れなくて済んだのだろうか……。 


もしかしたら「冗談だよ」と笑いながら、もう一度やり直すことができたのだろうか……。


などと、頭の中が上手く整理できなかった。



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