彼と彼女と彼の事情


地下鉄に乗り込んでからも私を見る好奇な目は、留まることを知らなかった。 

それでも……


『都会の人は“我、関せず”で冷たい人が多い』というけれど、今はそれに感謝したい。 


誰にも、今の私には気軽に触れてほしくなかったから。 

たとえ、家族であろうとも。

ぽたぽたと髪の毛から滴り(したたり)落ちる水。


それが肩を冷たく濡らし、スカートには丸い円を描いた染みができた。


―――…ズズズッ。


バックからハンドタオルを取り出し、毛先に溜まった水を拭うと、そのままギュッと顔に押し当てた。 



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