琥珀色の誘惑 ―日本編―
別に酔っている訳じゃない。

ちょっぴり、ほんのひと口、ビールに口を付けただけだ。


でも、人生初の門限破りである。

夜九時を回ったくらい、今時の女子大生なら当たり前かも知れないが……舞にとってはドキドキだ。

嫌なことを聞いてしまった切なさと、親への後ろめたさも相まって、舞は酔ってもいないのにおどけて見せたのだった。


「あ、姉貴……何やってんだよ。ったく、こんな時に限って」


舞が玄関を上がった途端、すぐ左側のドアが開く。
顔を出したのは舞の弟・遼(りょう)。
昨日が高校の入学式だった。十五歳、三月生まれの遼とは丸五年離れている。


姉弟は良く似ていて、遼は姉より数センチ高い。
思春期の少年らしく、家の中では無口だが学校では饒舌らしい。
人当たりも良く、女の子にもよくモテる、という噂だった。

舞にすれば……なんで男に生まれて来なかったんだろう、と弟を見るたびに落ち込む。


そんな弟が声を潜め、舞に話し掛けてくる。


「親父がカンカンだぜ」

「嘘! なんで? 外国から大切なお客様を接待するので遅くなるって」

「そのお客様も一緒なんだよ」

「はあ? なんで?」

「知らねぇよ」


真っ直ぐ立ったら桟に頭をぶつけるので、遼は屈み加減だ。

扉にもたれ掛かり、ブスッとした顔で答える。


その時、廊下の突き当たりにあるリビングのドアが開いた。


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