愛は満ちる月のように
美月には、その嵐が永遠のように感じ始めるのだ。


(でも……もう六年よ。六年もひとりにしながら、今さら……)


夫婦となってからも寝室は別だった。だが、嵐の夜は美月のベッドで抱きしめて眠ってくれた。

何を求めるでもなく。必要以上に触れることもなく。悠は一年間、美月の保護者という立場を貫き通した。

そしてMBAを取り、帰国するときに言った言葉。


『僕が夫でいる限り、藤原と一条の名前が君を守る。誰にも傷つけさせない。――また、会いに来るから』


あのときの美月は泣いて縋ることもなく、『ありがとう』と答えて笑顔で見送った。


(本当はひとりになるのは不安だったのに。でも……帰らないで、とは言えなかったわ)


だが、悠はニューヨークまで来ても、美月のもとへは来てくれなかった。
 

美月は吸い寄せられるように、桜の木に囲まれた土手の石段を下りようとした。

しかし、その石段は高さも不揃いで、ハイヒールで歩くには慣れとテクニックを必要とする場所。

初めてハイヒールを履いた美月は足もとがふらつき……。


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