愛は満ちる月のように
激怒したサイラスはレイプを断念した腹いせに、何度か美月を殴った。そのまま、彼女を部屋に閉じ込める。

おそらく桐生と連絡を取り、美月の処遇を決めるのだろう。下手をすれば違法な薬を使われる可能性もある。意思を奪われ、生かされ続けるくらいなら……。

まとめた荷物はもちろん、カードや身分証、小銭まで取り上げられた。その上、外に出られないように、窓から助けも呼べないようにと、服もすべて持っていかれたのだ。身に着けているのはキャミソールとショーツだけ。もちろん手近に靴どころかスリッパもない。

その夜は嵐だった。恐ろしいほどの風が吹き荒れ、大木の枝が揺れていた。

美月は木製のイスを振り上げ、ガラスを叩き割る。そして、手当たりしだいに部屋の物を壊し回った。嵐に負けないほど激しい音が家の中に響き渡る。

さらには、窓から車めがけてイスを投げ落とした。その衝撃にフランクの車から警告音が鳴り響いた。

美月の部屋に駆けつけてくるふたり分の足音。外からフランクとボディガードの声が聞こえ始め……。

美月は開いた扉の影に身を潜め、飛び込んできたメアリーとサイラスが窓から外を見ている隙に逃げ出した。一階の騒ぎとは反対側の窓を開け、外に飛び出す。

あとは、彼女がただひとり信じられる人物、悠のアパートに向かった。



裸同然の格好で真夜中に五キロもの距離を走るなど、そうそう経験することではないだろう。

幸か不幸か、激しい嵐と雷のおかげで誰にも襲われなかった。

だが……あの夜から、雷と嵐が大嫌いになった。追いつかれ、背後から襲われ、監禁される恐怖が付きまとう。桐生家の兄弟に監禁されたときのことや、父が撃たれた瞬間も思い出し……。


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