愛を教えて ―背徳の秘書―
「私は、部屋でもよかったのよ」


朝美が飲んでいるのはリンゴをベースにしたオリジナルカクテルだ。目の前に置かれたグラスを口に運びながら、彼女は誘うような視線を投げかけた。


そこは藤原グループ傘下のホテル、最上階のラウンジバーにふたりはいた。

卓巳が結婚前によく利用していたホテルだが、彼の場合、仕事以外は夫人を同伴したに過ぎない。


宗と朝美は、打ち上げや接待で同席することは多い。だが、ふたりきりでこんな場所に入ったのは初めてだった。

今思い返せば、この朝美とのセックスが一番楽しかったかもしれない。

もちろん、雪音と出逢うまでは、の話。



朝美はひと言で言えばデキる女だ。

しかし、女性らしい繊細さは皆無だった。ある意味、男性なみに即物的と言えた。


香織の場合、ラブホテルでのセックスを嫌がった。そのため、最初のころは一流ホテルを予約したものだ。

しだいに家に来たがり……宗が頑なに拒否したため、彼女の部屋で会うようになった。

だがそれは、香織に限ったことではない。

女性がセックス以上のものを求めはじめたとき、宗にとっては別れの潮時だ。そうなると、少しずつ距離を取るのが彼の手口だった。


朝美とここまで続いたのは、彼女が宗にセックス以外は望まなかったからだ。

彼女の狙いは常に卓巳だった。


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