劣情誘うスーツ
「うわ、あんただったんだ」
「は、何だよ」
「……馬子にも衣装、ってところね」
何を言われているのかわからなかった彼は、怪訝な顔をして、席に着いた私の元へと近寄ってきた。
「だから。その……スーツ姿のこと。
あんた、いつもラフな格好だから」
私服が基本の事務所だから、彼のスーツ姿をこんなにまじまじと見たのは初めてに近い。
まさか私が──この男のスーツ姿に欲情したなんて。
「今日、クライアントの所に挨拶に行くって言ってただろ。
それ言ったら、お前だって今日スーツじゃん」
「お世話になってる人の講演に行ってきたのよ」