月夜の翡翠と貴方
「どうもありがとうございました。とても助かりました…。お礼と言ってはなんですが、美味い店を知っていますので、夕食をご馳走致します」
「え、あぁ、どーも……」
ルトが軽く腰を折って礼をすると、男はぼそぼそ…と非常に申し訳無さそうな顔をして、話し始めた。
「………あの……大変不躾でご迷惑なのはわかっているのですが…もちろん、出来ればでいいので……」
そう、もじもじと言葉を詰まらせる。
ルトは煮え切らない男の言葉に、眉を寄せた。
「何?」
男の視線は、やはり宙を泳ぎ回っていて。
「………明日一日、またスジュナを見てはいただけませんでしょうか………」
「いいよ」
心底情けなさそうな男の頼みに、ルトはあっさりと了承した。
男が、ポカンと口を開ける。
「その代わり。詳しく教えてよ。スジュナちゃんとおっさんのカンケー」
…その代わり、なんて。
この男も、ただのお人好しではなかったようだ。
ルトは少し鋭く男を見つめて、そう言った。
「……………」
男はルトの顔を呆然と見つめた後、自身の足にすり寄る娘を見た。
「スジュナ…………」
スジュナは上を向き、父親を見つめる。
男は娘の顔を見て、全てを悟ったようだった。