愛罪



 瑠海と葉月さんを置いて家を出た僕は、バスに飛び乗ってある場所を訪れた。



(…本当は、こんな報告になるとは思ってなかったんだけど)



 カタリ、父親の好きだった缶コーヒーを彼の墓石に供える。

 あの手紙を読んで話をしたい人物に連絡をする前に、僕は父親に会いに来た。



 母親が自ら命を絶たなければいけなかった、その理由(わけ)。

 もちろんすぐに納得出来るものではなかったし、他にも方法があったんじゃないかとか、死ぬ必要性はなかったんじゃないかとか、ここへ来る途中のバスの中ではぐるぐるとそんなことが脳内を独占した。



 だけど、母親は死を選んだのだ。

 父親の分まで生きようと誓った想いを裏切らなければいけないほど、彼女はひとり戦い、そしてその戦いに敗れた。



 未だにあの手紙の文章や文字、伝わる愛情が体から離れない。

 どうしても、誰かに縋りたくなった。

 例えそれが屍となった父親でも、言葉に出来ない悲しみを共有して欲しかった。



「…あの人、僕らへの罪悪感からあんたのところに行ったんだって」



 力尽きるようにその場にしゃがみ込んで、無言で佇む父親の姿を見つめて言う。

 当然の如く返事はなくて、馬鹿だよねと心の中で笑った。



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