愛罪



 僕を見守るよう、頭上には青々とした空が広がり、とてつもない空虚を感じる。



 改めて独りを実感した。

 瑠海だって、祖母だって、葉月さんだっているのに。

 僕はどこまでも独りだと思った。



 孤独とは付き合い慣れたつもりだったけれど、独りほど虚しいものはないことは誰よりも知っている。

 笑い合う相手も、喧嘩する相手も、話を聞いてくれる相手も、嫌いになる相手も、孤独な人間には存在しない。

 嫌いになって貰うことすら、簡単なことではないのだ。



 それを今、唐突に実感した。



 僕は、母親が嫌いだった。

 でも、好きだった。

 それは言葉にするほど安易ではなくて、感情も付いて行ってなかったけど、誰よりも愛していたと思う。

 世界中の女性の中で一番大切だったし、愛して、愛されたかった。



 でも、手紙を読んで僕は知った。

 彼女は僕を愛してくれていたこと、見守ってくれていたことを。

 どうしようもないダメ息子だったはずなのに、彼女はそれでもこんな僕の母親でよかったと、知らなかった愛を遺してくれた。



 何を想い僕を見ているのかわからない父親との長い沈黙は、もちろん僕が破る。



< 210 / 305 >

この作品をシェア

pagetop