ライラックをあなたに…


「寿々さん用の食器類とか、必要でしょ?」

「…………」



本当にどうしよう。

彼の何気ない一言に感動してしまう。


無理やり住まわせて欲しいと懇願する私に対して、嫌々な態度ではなく、むしろ歓迎してくれているかのような、そんな表情。


彼の優しさがスッと溶け込んで、心の奥から温かさが込み上げる。



本間一颯という人物。

ほんの少し小悪魔な感じがするが、人柄で言えば文句無しのナイスガイだ。


『男』としての下心を表情や態度では現さないけど、もしあったとしても、何となく許せてしまうそんな気がした。



「ありがとうね、一颯くん」

「べ、別に……」



涙目でお礼を口にすると、ちょっと照れた感じで視線を逸らす彼。


そんな彼は、弱り切った心に栄養を与えてくれる。

『頑張れ』とか『少し休めばいいよ』とか、気休めな言葉は決して口にしない。


でもそれが、とても心地良く感じた。





国末寿々・27歳。

婚約者と別れた2日目の夜。

この日、結婚を目前に控え破談になった私が、再び生きる事への気力を取り戻した日。


そして、偶然にも私の命を救ってくれた彼・本間一颯の家に無理やり居候させて貰う事になった日でもある。



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