甘いのくださいっ!*香澄編追加しました*
「さあな、俺には分からねぇな。」


と、
何でもないことの様に
サトルさんは言った。


「さぁなって……。
私とサトルさんが結婚することで
和菓子業界全体にどれだけ
影響を与えるかーーー
今回のお見合い話は単に私たちだけの
話ではありませんのよ。
老舗の櫻やさんと
まだのれんは新しいものの
急成長中のうちとが組むと
間違いなく、業界を背負って立てるわ。
サトルさんのお父様は
サトルさんに安定した将来を
作ってやりたいとお考えなのよ。」


「知ったこっちゃねぇよ。
ただ俺は自分の納得のいく
饅頭をこれからも作っていきたいだけだ。
その上で、俺はお前の家の力も
お前自身も必要としていない。
それでこの店が潰れるような事になっても
それはそれで仕方ないことだと
諦めるさ。」


「それって、本心なの?」


「ああ、本心だ。」


「はぁ……
サトルさんはなんにも、
分かっていないようね。」


「何をだよ。」


「うちの父は色んな方面にも
事業を拡大しているの。
和菓子を初めとする食品関連の会社や
後、不動産関連の事業も始めたのよ。
それで今、ある地域を
買収する計画を立てているわ。」


「それがなんだよ。」


「父が食品関連のテナントビルを
建てる為に買収しようと選んだ
そこの地域には、
随分と美味しいお料理を出すお店が
あるらしいわね……。
若くて綺麗な女の人が
一人で切り盛りしているとか……。
サトルさんご存知ないかしら?」







そ、それって……
もしかしてっ!


「ユズの店の事を言ってるのか?」


サトルさんが静かに言った。


「どうだったかしら?
イチイチ、覚えていられないわ。
味は良いらしいけど、
店舗はまるで民家のままで
随分と地味なお店なんですってね。
私はその店を見たことないけど
素人が細々と作っている
貧乏ったらしい、お店ーーー」


「帰れっ!
今すぐ、帰れっ。
ここから出ていけよっ!」


サトルさんの怒号が響いた。


初めて見た。
サトルさんの怒った顔……。


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