齧り付いて、内出血

緑川法律事務所の3階――ここが今の私の主な“戦場”だ。


戦闘服はスーツ、書類とPCという武器を引っ提げて、文字通り毎日奮闘してる。

――目指していた弁護士として。


エレベーターを降りてまっすぐ歩いた突き当りの部屋の前。


『(今日も一日無事に過ごせますように。)』


すう、とひとつ深呼吸をして、ドアに手を掛けた。


一番乗りだと思っていたのに、中ではすでにひとりPCに向かっている。


その表情は真剣そのもの。


いや、というよりむしろ…睨み付けているに近い。


『おはようございます、矢野さん。』


シルバーフレームの眼鏡をキラリ光らせながら、矢野さんはゆっくりとこちらに首を回した。


切れ長(すぎる)目のせいか、ただ「なんだ、浅倉さんか」と言われただけでもなんとなく威嚇されているような気分になってしまう。

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