齧り付いて、内出血
『なんだ、とは随分ですね。』
「いや、他意はない。」
『誰かを待っていた、とかですか。』
「…浅倉サンは本当に嫌なところを突いてくる。」
右手で眼鏡を覆うような形でかけ直す。これは矢野さんの癖だ。
最近担当した案件で一緒にチームを組んでいるからだんだんとわかるようになってきた。
でも誰かっていうのが具体的に誰なのかまではまだわからない。
この人も、なかなか考えていることが伝わりにくい人だ。
「さすが、久世と同じ教授に師事しただけある。」
『…それはあまり関係ないと思いますけど。久世さんとは大学にいた期間が一年もかぶっていませんし。』
「それは知ってる。僕は久世と同期だから。お…噂をすれば。」
振り向けば、ドアの辺りにその人は立っていた。
私は一瞬にして外用の表情を張り付ける。
よし、大丈夫。