コーヒーを一杯


「はい。どうぞ」

目の前には、綺麗なピンク色の飲み物が背の高いグラスに注がれ置かれていた。
先の曲がるストローもピンク色で、喉の渇いていた私は、それを半分近くまで一気に飲んだ。
イチゴの瑞々しさと甘酸っぱさが口の中一杯に広がっていく。

「美味しい」
「でしょー。大切に育てられたイチゴだからね」

目の前の女性は、またパチリとウインクをしてみせる。
その表情は、やっぱり可愛らしくて、こんな女性になりたいななんて思わせた。

「そのキーホルダー、可愛いじゃない」

突然の言葉に、私は息を呑む。

視線を鞄についているキーホルダーに向けてから、女性がまた私を見た。

瞬時に浮かぶ華の顔。
苦痛に歪む華の顔。
大丈夫って強がる華の顔。

そんな華を振り切るみたいに、私は一度大きく息を吐き出した。
それから、ポツリと呟く。

「お揃い……なんです」

四葉のクローバーをモチーフにした、明るい緑色のキーホルダー。
枝先には、キラキラと光る透明なジルコニアがついている。

華の鞄にも、同じものがついていた。
華のジルコニアは、ピンク色。
幼馴染の私たちが、高校へ進学する記念に買ったものだった。

「お揃いの片割れは、今どうしてるの?」

訊かれた言葉に一瞬で心臓がぎゅっと苦しくなった。
速くなる鼓動と、苦しくなる息。

この苦しみは、誰のもの?



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