紅芳記
陸.真田家団欒

「奥方様。」

「仲橋か。
如何した。」

お夢殿と会ってから数日、殿がもう間もなく到着するとの知らせがありました。

「はい。
世都殿がお戻りにございます。」

「そうか。
もう、そこにおるのか?」

「はい。
お通ししてよろしゅうございますか?」

「よい。
早うに。」

「はい。」

仲橋は部屋から出て行き、その後すぐに世都が入って来ました。

「お世都っ!」

「奥方様。
世都、只今戻りましてございます。」

「よう戻った。
今度の働き、大儀であった。」

「は。
もう奥方様もご存知とは思いますが、少なくとも明日にはご到着されるかと。」

「そうか。」

どんなに、この日を待ちわびたことか。

ようやく、殿に会えるのですね…。

「世都、ほんにように戦場まで行ってくれた。
ゆっくり、休んで。」

「はい。
お言葉に甘えさせて頂きまする。」

「ふじ、世都の部屋の用意を。」

「承知致しました。」

ふじが下がった後、世都に話を持ち掛けてみました。

この後も、私の侍女となってくれぬか、と。

天下の情勢は豊臣に固まりつつも、いつその形勢が逆転するか、わかりません。

少なからず、小競り合いはあるでしょうし、泰平の世となってから必ずと言って良いほどあるのが、権力争いです。

遥か昔よりあった争い。

そのそれぞれの時代に、蘇我氏や藤原氏、源氏、北条氏、足利氏、それに、織田家と豊臣家が。

勝ち抜いていったのです。

されどその権力者たちの背後には、血生臭いこともたくさんあったはずです。

きっとこの先、忍びである世都の力が必要になるはずなのです。


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