銀棺の一角獣
ひそやかな出立
 デインを残して、アルティナが向かったのは中庭だった。呼ぶまでもなく、ルドヴィクが姿を現して、彼女に従う。

 自分よりだいぶ上にある顔を見上げて、アルティナは笑みを作ろうとした。


「寒くありませんか、アルティナ様」

「大丈夫。寒くはないわ」


 そう言ったのに、近衛騎士団の白いマントが肩にふわりとかけられた。先に立って歩くアルウィナのすぐ後ろを彼は守るようについてくる。

 本来なら、もう何人か従うのだけれど――今は誰もが二人をそっとしておいてくれる。
 遠巻きに見守っている騎士たちはいるのだけれど、誰にも気兼ねすることなく二人で中庭を散策することができた。

 ライディーア王国はこれからが一番美しい季節だ。木の緑が生き生きとして、さまざまな花が咲き乱れて。
 今年はそれを見る機会はないけれど。アルティナは足を止めて、咲き始めたばかりの花を一輪摘み取った。


「侍女はお連れにならないそうですね」


 先に口を開いたのはルドヴィクだった。


「道中、ご不自由ではありませんか?」

「……不自由かもしれないけれど」
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