甘い唇は何を囁くか
第7章「The 3rd times」
昨日食べたクレープ、モチモチした焼いた生地にサワークリームがたっぷり入っていてとっても美味しかった。

遼子はホテルのロビーにいた。

あの、恐ろしくも忘れられない夜から、ほとんどホテルを出ていない。

昨日は昼間の内に近くのショッピングモールに出かけたのだが…。

背の高いサングラスをかけた男が歩いているのを見ただけで、ドキっとして足を止めてしまう。

もう、会わない。

もう、逢えない。

あの人、何才だろう。

何をしてる人だろう。

ずいぶん落ち着いた雰囲気だし日本語もすごく上手だった。

けど、あんな外交官やホテルマンはいないだろう。

どこかの会社の若社長とか…どちらかというとそういう感じだ。

そこで、はっとする。

「違くて!」

部屋で1人でいると悶々としちゃうから、ここで昨日食べたクレープの事とか考えながら時間を潰そうと思ったんじゃなかった?

まったく、油断も隙もあったもんじゃない。

とにかく、もう考えない。

なんだったら、予定を変更して日本に帰れば良いんだから。

何気に失恋の傷は跡形もなく癒されてるし、歴史的建造物は沢山写真に収めたし、お土産も買った。

ズルズル何もせずに、ここにいないといけない理由はないし、その方がーー。

あの人のことを思い出さずにすむじゃない…。
< 49 / 280 >

この作品をシェア

pagetop