重なり合う、ふたつの傷
夜の陸橋


苦しくて息ができなくなりそうで外に出ようと階段を降りると、両親はまだ険悪なムードで再び言い争いが始まった。


「だから時給がいくらかって聞いてるんだ。週五日でそんなに少ないわけないだろ」


「あなただって、なんでそんなに出張が多いのよ。大阪、大阪って」


「うるさーーーーい!!」

私は叫んだ。


その場で写メを突きつけてやろうかと思ったけど、ケンカするなら殴り合いでもなんでもすればいいと思った。


証拠を見せるのはその後でも遅くはない。



私は適当に電車に乗った。


行った事のない場所に行きたかった。


学校に行く時に降りていた横浜駅を越えて、川崎駅で降りた私はどこへ行くでもなく、ただ歩いた。



川崎は工場のイメージだったけど、大きなショッピングモールや映画館が沢山あって、横浜よりも栄えている気がした。



明るい気分でここへ来たら、服を選んだり、髪飾りを見たり、スイーツを食べたり、映画を観たり、楽しかっただろう。


そう思いながら赤い電車に乗った。




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