フォンダンショコラなふたり 
オランジェットな君の瞳


窓から流れ込む空気の冷たさに顔が引き締まった。

それでも、朝の空気には春の気配が含まれ、遠くにのぞむ丘の土手には菜の花が咲き、木々の蕾も大きくなりつつあった。

近づく春を肌で感じながら、窓をそっと閉める。

ベッドで眠る彼女に起きる様子はない。

彼女が起きるまで何をしよう。

仕事をはじめたらきりがない。

副社長秘書の任務はやりがいはあるが、仕事に終わりがない。


秘書業務はスケジュール管理だけでなく、もろもろの手配に日々忙殺される。

そんな中、金曜日の午後から土日をはさみ月曜日まで休暇を得た。

ボスである近衛宗一郎副社長は、休暇の理由を問いただしたりはしないが、休暇の理由は法事と申請し、祖父の13回忌の法事であると付け加えた。

身内の葬儀への出席となれば、上司や同僚の気遣いを予想しなくてはならない。

弔電くらいならよいが、生花など贈られたなら、たちまち偽りが露見してしまうおそれがある。

その点、13回忌はほどよい理由だった


信頼を寄せてくれる副社長へ大胆な偽りを述べてまで三日間の休暇を得たのは、彼女と極秘に過ごすためだ。

交際を公にできないため、なにかと不自由な思いをさせている彼女へ、記念日に会う約束をした。

「初めて会った日だから、3月14日にどうしても行きたい」 そう言われては、張り切るしかない。

休暇は彼女のためだけに使うつもりでいる。


そもそもここまできて、仕事をするつもりはなかった。

できるなら、外の出来事に一切触れずに三日間を過ごしたいものだ。

起きて待つことをあきらめ、再びベッドに横たわることを選んだ。

彼女の隣に体をすべり込ませ、温かな肌に寄り添った。

幸せな時間とは、こういうことではないだろうか。

3月14日早朝、まどろみながら一ヶ月間前の出来事を思い出していた。




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