嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
五、乱入者。

あんなに泣いたのに、次の日ちょっと私の目は腫れぼったいだけで充血も真っ赤にもなっていなかった。

繊細さなんて私には無縁の言葉なんだと悟って、けれど出勤なんてしたくない。
幹太に会うのが嫌で嫌で嫌で堪らなくて、逃げた。

「いらっしゃいませ」
「おはぎを五つと、どら焼きを二つお願い出来るかしら」

幹太のおばさんと出勤場所を変えてもらい、私はデパ地下の春月堂二号店に来ている。
今日は、在庫の点検と売上のいい品物チェックだけだから、私が交代しても大丈夫みたいで良かった。

皇族ご用達との触れ込みや老舗和菓子屋という古い暖簾のおかげと、エレベータ降りてすぐの正面という立地のおかげで、一人接客するのは長期休暇期間などでは無理だった。

平日の今も御彼岸前なのでぽつぽつとお客様が来る。
食べ比べて一番味がいい店のおはぎを当日に買うって人もいるから、春月堂を知らない人でもやって来る。
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