恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



雪也に今以上に近づいたら、きっと美鈴は花澄を敵対視するようになるだろう。

それに美鈴の母の美織も、分家の娘である花澄より本家の娘である美鈴の方が、月杜家と縁組するにはふさわしいと主張している。

そんな状態で花澄が雪也に近づいたら、本家の援助を受けている父の工房にも悪影響があるのは必至だ。

……雪也か、父か。

その選択をすることは、花澄にはできない。

何かを得ようと思えば、何かを犠牲にしなければならないこともある。

その痛みに耐えねば、望むものは手に入らないのだ。

そう、わかっていても……。


「……どうした、花澄?」


黙り込んだ花澄を、傍らに立った環が訝しげに覗き込む。

綺麗な榛色の瞳が、心配そうに花澄を見つめている。

花澄は慌てて首を振り、口元に笑みを浮かべた。



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