恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



花澄は父と母双方からいろいろと言われたあげく、『苗字が変わるのは嫌だろう?』と祖母の清美に説得され、最終的に父について行くことを選んだ。

母とは一か月に一度面会できることとなり、離婚が成立した後も、定期的に面会に来た。

母は花澄と会っている時は優しく穏やかな母親の顔を見せていたが、帰り際になり花澄が『帰っちゃイヤ!』とタダをこねると、すっと厳しい顔になって言った。


『……我儘言っちゃだめよ。選んだのは花澄、あなたなのだから』


その言葉は、幼い花澄の心に深い傷となって残った。

――――選ぶということは、選ばなかったものを捨てるということだ。

それを両親の離婚で身を以て学んだ花澄は、『選ぶ』ことに恐怖を感じるようになった。

何かを選んだら、選ばなかった何かを傷つけ、捨てることになる……。

そしていつしか、花澄は『選べない』性格になっていた。

もちろん『ミカンかリンゴか』ぐらいの選択は普通にできる。

しかしこのトラウマは、特に人と関わることに関して、高校生になった今も多大な影響を及ぼしている。

雪也に憧れながら近づけないのも、そのせいだ。


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