スーツを着た悪魔【完結】
「言ったよ」
「っ……そ、そうかもしれないけど、でも、お前って、言わないでください……」
自分をジッと見つめる深青の眼差しが優しいことに気付いて。なんだか気恥ずかしくなったまゆは、目を逸らす。
もちろん覚えている。
あれは生まれて初めてのデートだった。
深青が私の手作りのお弁当をおいしそうに食べてくれたこと……
あの日のことは、全部覚えてる。
「じゃあ、まゆ」
「――」
「まゆ」
深青はうつむいたまゆの頬にかかる髪を指でかきわけ、耳にかける。
「そんな、何度も呼ばなくていいよ」
「なんだよ、我がままだな。お前って言うなって言うから名前で読んでるのに」