恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~

4.『いい人』の限界




翌日。

花澄は箱根にある父の藍染め工房にいた。

染め終った糸の束を工房の外にある洗い場に持って行き、台の上にゆっくりと広げる。

茶緑色だった糸が空気に触れ、少しずつ青く変わっていくこの瞬間を見るのが花澄は好きだ。

この色の変化を見るのが、藍染めの醍醐味とも言える。

藍の色素は空気中の酸素と触れることで不溶性の色素・インディゴになるため、一度中性で安定してしまえば色が落ちることはない。

花澄は藍の発色を確認しながら、脇にあった水道のホースを台の上に引っ張り、丁寧に水で洗っていった。

この時期は水が冷たいのであっという間に手がかじかんでくるが、藍染めは繰り返し染めることで深く綺麗な藍色になっていく。

なのでどの工程も疎かにはできない。

花澄は糸を丁寧に広げながら藍液を水で落としていった。


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