恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



藍染めは藍の原料となる葉藍を100日ほどかけて発酵させた『すくも』を藍甕に仕込むところから始まる。

藍甕の中にすくもと、藍菌の栄養となる酒、ふすま、灰汁、石灰などを入れ、菌が活動しやすいよう一定の温度に保ち、2週間ほどして菌が安定したら染め始める。

この手法は『灰汁醗酵建て』と呼ばれ、江戸の昔から日本の各地で行われてきた。

亜鉛末などの化学的な媒染剤を使っても染められる状態にすることは可能だが、藍の色の美しさが灰汁醗酵建てに比べると幾分劣る。


花澄の家は昔、徳島で藍染めをしていた『藍師』と呼ばれる旧家の家系だった。

戦争の混乱で藍師を続けることを一旦は断念したが、20年ほど前に父の繁次がこの歴史ある手法で藍染めの工房を再興した。

この工房に賭ける父の思いを昔から知っているからこそ、花澄も工房のためにできるだけのことをしたいと思っている。


一通り糸を洗い終わったところで、花澄は工房の中へと戻った。

奥の事務室に入ると、父が机の前で何やら難しい顔で書類を手にしている。


「お父さん、それ、何?」

「これは一昨日、『桜塚工房』から送られてきた例の中国企業の紹介書だ。どういうもんだかな、こういうのは……」


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