さよなら御伽話（メルヘン）またきて現実（リアル）【完】
「ねえ、ベル待って！」


いきなり道路に飛び出したら危ないなんてこと、ウサギにわからなくても私はわかっていたはずなのに。
なぜだか、この時の私はそんな幼稚園児ですらわかっていることを失念して、白ウサギを追ってしまったのだ。

後ろで和泉川先輩が何か叫んでいたけど、私はそれを無視して脚を動かす。
まるで不思議の国に迷い込んだアリスのように、無我夢中で白ウサギの後を追い続けてしまう。


「！」


甲高いクラクションの音が鼓膜を貫こうとしたと同時に、こちらに急接近してきていたトラックのフロントライトが、まるで鋭い双眼の如く私を睨みつけていた。
その眩しさに目がくらむ。

脚は膝上までのぬかるみに嵌ったように動かない。
息を呑んで声を上げることも儘ならない。
フリーズ寸前の私の思考とは裏腹に、地を轟かせながら迫ってくるトラックにどこかデジャヴを感じたのはなぜだろう。


「愛生ッ！」


呆気にとられていた私の名前を叫んだ和泉川先輩の声を最後に、記憶が遮断された。
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