在日メンヘラだけど質問ある?
小学校6年生の12月。
私は小児てんかん、ヤンツ症候群というものを発症した。



寝たきりの母は、時折起き出しては気が狂ったように家事に没頭してみたり、かと思えばまた倒れるようにベッドに戻ったりと、私も幼いながらに「このひとは何か怖い」と薄ら寒いものを感じるレベルの生活をしていたが、「何か怖い」の理由の内に、私への教育の姿勢がある。

小学校4年生で塾に通い始めた。
受験塾で、私は都内の女子校、所謂御三家と呼ばれるところを狙っていた。

週の半分は、深夜まで机に向かわされたか。
【勉強とはするものではなくさせられるもの】、私の勉強嫌いはこの頃に培われたと言っても過言ではないだろう。
10やそこらの女の子が、朝から学校に行く他に、深夜2時、酷い時は3時まで机に張り付き、傍らで教える母親に時折引っ叩かれながら勉強をするのだ。
当たり前だ、勉強も嫌いになるし、体調も崩す。

狙っていた御三家には勿論行かれなかった。
両親からしてみても、私にしてみても、体調が不安なのが一番だった。
両親が付けていた家庭教師の青年の勧めで、彼の母校である地元の私立の中高一貫校を受験し、そこへの入学を決めた。



中学に入ってからすぐのことだ。

それなりに愛想の良い私は、友達も割とすぐ出来た。
塾で一緒だった友人との再会も嬉しいハプニングだった。

その対人関係が、担任教師によって粉々にされた。

ありもしないイジメの主犯の疑惑をかけられ、教卓の前で怒鳴られ糾弾されたのだ。

知らない。やってない。そんな言葉が通じるまともな相手ではない。
先生の言う事をよく聞く優等生の集まり、といった体の私立中学のお坊ちゃんお嬢ちゃんは、絶対的神様である教師が悪魔だと批判した私をイジメることはなかったが、その代わり徹底して私を避けた。

当時は辛いとも思わなかった。
学年が上がりクラス替えがあって友達を作り直してから、その教師が憎くてたまらなくなった。
今となっては然程興味もない、彼レベルの人間に粉々に出来るのは子供の人間関係程度で、ひとの人生なんか粉々には出来ないと割り切れている。



中学2年生。
友達が沢山出来た、一番の仲良しとはもう10年、今でもつるんでいる。

同時に、何故だろう、母に続いて私も壊れた。

ストレスに極端に弱い、所謂豆腐メンタル。
軽い安定剤を服用し始め、それでは抑えきれず、3年生には刃物で腕を切り刻む立派なメンヘラに成長を遂げた。
授業中、皆と一緒に机に座っているのが苦痛で、机の下で腕を刻み続けたのは我ながらキチガイじみている。

安定剤は抗鬱剤に取って代わり、今度は私が寝たきりの引きこもりになった。

母も父も泣いた。とんだ親不孝者だ。

卒業式にも、高校の入学式にも行かずに、不登校は約半年続いた。

外界との繋がりは携帯電話とパソコン、私は所謂「なりきりチャット」という遊びで仮想世界に浸った。
完全に人間らしさを捨てた生活が続いた。



高校も1年、2学期になって保健室登校から通い始めた。

中学2年生からの友人がたまに訪ねに来てくれたり、同じ中高一貫校に入学した妹にもとにかく迷惑をかけた。

保健室登校の期間を経て教室に戻ってからも、妹はとにかく私の介護(そういうレベル)を続けた。

一度、高校を卒業してから謝ったことがある。
ごめんね、私の面倒見させたよね、と。
「謝らないで、必要だからやっただけだから」
ドライな答えが返ってきた。
「先生からも沢山褒められたよ、姉ちゃんの面倒見て偉いなって。でもそれも迷惑だった、必要だからやっただけなのに」
とことんドライである、余計申し訳ない。



高校卒業も私には困難な課題だった、何せ出席日数がとにかく足りてないし、学力だって学内平均の二割も行かないレベルなのだ。

先生達は、私が卒業出来るようにとにかく尽力してくれた。
私も勉強嫌い故の不真面目ながらも、それなりにおざなりの努力をした。

大学への進学も決まった。
通っていた高校のレベルから見ればFランクもいいところなレベルの大学だが、私にはとても素敵な学校に思えたし、何より頑張れば届く範囲の学校だったのもある。
無事華麗なる合格を決めて凱旋した私に、妹は「お前みたいな奴が合格する世の中は理不尽だ」と不平を漏らした。
理不尽でも結果は結果だ。



大学進学とほぼ同時に、母と妹、そして私がこっそり父の元から逃げることが決まった。

父は少しおかしくなっていた。
ノイローゼ、というべきか。
仕事が上手くいかなかったらしく、極端な被害妄想に悩み始めた。
そこから転じて、攻撃的になり、母も妹も堪えかねたのだ。

正直に言うなら、他にも彼女らの言い分はあるだろう。
でも、今の私の目線から見ると、その言い分は正確ではなく、あまりに主観的すぎるのだ。

私は何故2人に付いて家を出ることににたのか?
単に、捨てられるのが怖かったからだ。

私の卒業式を終えて暫くしてから、私たちは逃げるように父の元を離れた。
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