LittlE bY LittlE
「多分飼い慣らされているんだよ。」
「何に?」
「当たり前っていう日常に。」
瑞季は顔をしかめた。
「何言ってんだ?」
「何言ってるんだろうね?」
「その質問を質問で返すの止めろよな。」
呆れた様子の瑞希に肩を竦めて、煙草に火をつけた。
「じゃあさ、もう一個訊いていい?」
「ん?」
「飼い慣らされた日常で生きる意味って何?」
「……………」
瑞季の言葉に難しい意味なんてない。
けれどいつだって瑞季の言葉は真っ直ぐだ。
「そうだなぁ……人それぞれだと思うけど、俺が生きてる意味は今のところ瑞季かな。」
「……俺?」
「そー。だって飽きないじゃない、瑞季見てると。俺のつまらない日々の中で、唯一毎日変化をくれるのがお前だし。」
退屈だった。つまらなかった。
あの日、君に出会うまでは。
「ふーん、じゃあ翔は俺に感謝しなきゃだな。その意を表して今日は焼き肉でいいぜ。」
良い笑みを見せて、財布の厳しいこの時期になかなかエグいことを言ってくれる。
「はいはい、特上なしね。」
「ちぇ、けち。」
「ライスとキムチだけにするよ?」
「あー!ごめん、ごめんなさい!」
人は飼い慣らされている。
そんな当たり前の日常で、つまらないと呟いていた俺はなんてつまらない人間だったのだろうと、君と出会って初めて知ったのだ。