憎悪と、懺悔と、恋慕。
 

 
 家に帰り、リビングに行くと親父が1人でテレビを見ていた。

 おそらく、オカンはお風呂だろう。

 「オレ、早川さんと付き合いたいと思ってる。 オカンに全部話して、オレと早川さんの事、許してもらおうと思ってる」

 久々に親父に話しかけた。 親父の不倫が発覚してから、ろくに口もきいてなかったから。

 「・・・いいのか?? お母さん、傷つくぞ」

 親父が、オレと視線を合わせてきた。

 オカンを裏切ったのは親父の方なのに、なんでオカンを傷付けるのはオレの方になってしまうんだろう。

 「早川さんのお父さんは分かってくれた。 だからオカンだって・・・」

 「・・・どうせ、オレが止めても言うんだろ?? 湊はオレを軽蔑してるから。 ただ、これだけは言っておくぞ。 早川さんのお父さんが納得したからって、お母さんもそうだとは限らない。 お母さんは、そんなに強い人間じゃない」

 親父が、警告をする様にオレに釘を刺す。

 オレには、歩けなくなっても明るくていつも笑ってるオカンが、弱い人間には思えなかった。

 親父の『オカンにはバラさないでくれ』という最後の醜い抵抗に見えた。

 だいたい、不倫を隠して親父がオカンに謝っていない事にも引っかかっていた。

 オカンに話そう。

 オレと早川さんの交際を認めてもらって、親父にも謝罪させよう。
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