新緑の癒し手

 そして、嫌でも現実が突き付けられる。それは目に見えない壁となってダレスの立ち塞がり、両者の関係を阻む。ダレスは力無く寝台に崩れ落ちると、枕に顔を埋め身体を震わした。


◇◆◇◆◇◆


 血を流し瀕死の状態のダレスを嘲笑ったセインに対し、不満を募らせているのはフィル王子。それでも誰かに八つ当たりしないのは彼の器の大きさであり、それ以上にダレスの身が心配だった。流石にあの出血量では命の危機に瀕していると不安視したのだろう、焦った表情を浮かべている。

 フィル王子は神官の案内でダレスが普段使用している部屋の前に行くと、扉越しに彼の状況を尋ねるがダレスからの返事はない。返事がないことに不安感が募ったのかフィル王子はノックなしで部屋に立ち入ろうとした時、食欲をそそるいい香を漂わせたフィーナが彼に声を掛けてきた。

 タイミングを見計らったかのように登場したフィーナにフィル王子は早速ダレスの容体を尋ねようとするが、先程から鼻腔を擽るいい匂いと美味しそうな料理の数々に目が行ってしまい「何故、貴女が料理を運んでいるのか」と、ダレスの状況を他所に此方のことに付いて尋ねた。

 フィル王子の尋ねにフィーナは、自分が手当てを手伝ったことと思った以上に元気だったことを伝える。また出血量が多かったので簡単に料理を作り、それを持って来たことを話しに付け加えた。勿論、フィル王子にはダレスが今半分竜の姿に戻ってしまっていることを話さなかった。

「……そうか」

 友人が無事だということをフィーナの話で確信したのか、フィル王子は安堵の表情を浮かべ口許が緩んでいく。すると徐にダレスが使用している部屋の扉を叩くと、中に立ち入ろうとする。だが、ダレスの正体のことがあるので、寸前でフィーナが制し何とか進入を阻んだ。

「ダ、ダレスは寝ています」

「顔を見るだけだ」

「私以外、駄目と申していました」

「あいつらしいな」

「で、ですので……」

「そういうことなら、仕方がない。それに貴女の話で、ダレスが無事だとわかった。あいつが起きたら言っておいて欲しい。二度とあのようなことをするな。次、正々堂々と戦え――と。それと、無理だけはするなと言っておいて欲しい。あいつは、すぐに無理をするからな」
< 127 / 332 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop