新緑の癒し手

「嫌です」

 ヘルバが言う「あの馬鹿」というのは、セインを示している。欲望中心で物事を考えている彼は、ヘルバがいなくなれば絶好のチャンスと捉えフィーナのもとへ訪ねて来るだろう。

 彼の行動パターンは確立されているといっていいものなので、彼の悪い部分の性格を熟知している者なら瞬時に導き出すことができる。だからこそ、ヘルバは自分がいなければ彼がやらかすと簡単に見抜くことができ、遠くからでもフィーナを監視しなければいけないと考えた。

 勿論、フィーナは彼を拒絶する。あのネバっとした目線で身体を舐めるように見られるなど、おぞましい以外考えられない。第一、セインが側に寄って来るだけで鳥肌が立ち震えだす。現にセインの話が出た瞬間、フィーナの身体が小刻みに震えだし顔から血の気が引く。

「だから、遠くから」

「大丈夫なのでしょうか」

「何が?」

「その……こう言ってはなんですが、遠くから監視ができるのでしょうか。悪い意味ではないです」

「俺は視力がいい」

「それでしたら、安心です」

「だから、あいつが戻って来るまで馬鹿見習いから守ってやる。君に何かがあったら、あいつに殺される」

 それは冗談で言っているわけではなく、本気の言葉。ダレスとフィーナが、互いに想い合っていることを知っている。それが確信に変わったのは、彼女の口から直接聞いたから。また、血の呪縛の影響でダレスがフィーナに真に告白できないでいることも、彼は知っている。

 その中で、フィーナの身に何かが起こったら――ダレスは容赦なく、殺傷能力が高い竜のブレスでヘルバを焼き殺す。勿論、手加減なしの攻撃を行なってくるだろうから恐ろしい。

「で、戻って来たら例の方法を探してみる。村に戻れば博識の人物もいるから、何か知っているはず」

「お願いします」

「実は、俺も気にしていた」

 ダレスを血の呪縛から解放したいので、何か方法を存じていないか。そう、フィーナはヘルバに尋ねるも、彼は首を横に振り何も知らないと言った。しかしヘルバも親友が血の呪縛から解放され何不自由なく生活できればいいと思っていたらしく、快く協力を申し出てくれた。
< 173 / 332 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop