新緑の癒し手

 しかし、その笑いも一時的なものであった。ヘルバは瞬時に真面目な表情を作ると、本当にダレスと一緒になりたいのか問う。勿論、ヘルバは彼等の気持ちを尊重したので手助けを申し出たのが、それ以上に越えないといけない壁が幾つも存在するとフィーナに話していく。

 ダレスは竜の血と人間の血を引く者で、一方フィーナは普通の人間でありながら多くの同胞の敬愛を集めている癒しの巫女。ヘルバの話しでは現在の状況では二人が一緒になるのは難しく、特にダレスの両親の件があるので慎重にならないといけないと彼女に忠告する。

 人間は自分達が地上で一番優秀な種族と考え、他の種族は劣等種と呼んで蔑んでいる。そのような中で、竜の血を半分受け継ぐ巫女が誕生したらどうなるか。たとえダレスのように血の呪縛に悩まされなくても別の意味で苦しめられ、神官によって迫害を受けるかもしれない。

 彼等を祝福したい。

 でも――

 ヘルバは悩んだ末、いずれ直面する現実をフィーナに伝える。これが人間同士であったら、なんら問題はない。だが、フィーナが愛しているダレスは二つの種族の血を引く者。ダレスから借りた本の話のように上手くいくものではなく、願いと努力だけでは解決できない。

「わ、私……」

「わかっている。だからといって、あの馬鹿と結婚しろと言っているわけじゃない。結婚すれば、不幸になることは目に見えている。そのようなことは、ダレスも俺も望んじゃいない」

 ダレス以外を――

 ふと、そう口に出しそうになる。

 幸い、フィーナの耳にヘルバの本音は届いていない。それでも雰囲気で彼が言いたいことに気付いたのか、何処か落ち着きがない。彼女の態度にヘルバは溜息を付くと、目先の目標であるダレスを血の呪縛から解放する方法を探さないといけないと言い、話を切り替える。

 ヘルバの意見にフィーナは頷き返すが、先程の話が相当ショックだったのだろう顔色が悪い。それでもヘルバは言ってはいけないことを言ってしまったとは、思っていない。寧ろ、直面する現実を隠し温かい祝福の言葉を述べる方が、偽善的であり欺瞞そのものと見る。

 彼等の将来を思ってこそ、あえてヘルバは悪い役を演じる。友として、不幸になるとわかっている両者を一緒にするわけにはいかない。何と不幸で何と哀しいものかとヘルバは現状を嘆き、人間達が信仰している女神が救いの手を差し伸べない現実に神の存在をダレス同様に疑いだす。
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