新緑の癒し手

 フィーナは努力をし続け、村の者の信頼を勝ち取った。訪れた当初は村に馴染むかどうか心配だったが、今はその心配をしなくていい。これならこのまま村に滞在できるのでは――とレグナスは考えるが、これは彼女の心情を優先しないといけないので無理強いはできない。

 ただ、レグナスは彼女が長く滞在してくれることを望む。フィーナが滞在すれば、息子も村に留まってくれる。できるものなら、二度と神殿に戻らないで欲しい。しかしその思いをレグナスが口に出すことはせず、表面上は冷静な面を取り続け二人を影で支えていくのだった。

「一緒の生活はどうだ?」

「普通」

「普通ならいい」

「家事は分担というか、フィーナが殆んどやってくれる。村に来た時より、飯が美味くていい」

 息子の正直な感想に、レグナスの口許が緩んでいく。照れ隠しなのか、言葉では「普通」と言っているが、本当は上手くやっているのだろう、仲睦ましいいい二人が微笑ましかった。その時、話の中心人物となっていたフィーナが、此方に向かってやって来るのに気付く。

「どうした?」

「ご飯の用意」

「ああ、助かる」

「今日は、何がいい?」

「任せる」

「わかったわ」

 以前「任せる」と言われメニューに困っていたフィーナだが、村の者に美味しい料理の作り方を教えて貰っているので、今は特にメニューに困ることはなかった。それに任せられていることは作る料理に文句がないということで、それだけ信頼されている証拠であった。

 ふと、何かを思い出したフィーナは、戸惑いを見せつつダレスに疑問に思っていることを尋ねる。その質問に対しダレスは反応と回答に困ってしまい、後方で仕事をしている父親を一瞥する。フィーナが疑問に抱いていたのは竜の特徴のひとつ、愛情表現の仕方だった。

「誰から聞いた」

 どうしてフィーナが、そのようなことを知っているのか。ダレスが問い質すと、機織の仲間に教えて貰ったという。フィーナに何を教えているのか――ダレスは頭痛を覚えるが、知ってしまったのだから仕方ない。何と返答していいか迷うも、ここは素直に答えることにした。
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