新緑の癒し手

 それが母親の受け売りであったとしても、彼の口からそのようにハッキリ「あり得る」と言ってくれたことが嬉しかったのか、フィーナは頬を微かに紅潮させ滅多に見せない笑顔を作る。それは屈託のない笑顔という言葉が似合い、常にその笑顔が作れればいいとダレスは思う。

 フィーナは自分が想像した結末後の話をいうのを語り、それが自分の理想を重ね合わせた展開だと笑い出す。確かに「都合がいい」や「普通では考えられない」という展開でもあったが、懸命に考えた話。ダレスは静かに聞き耳を立て、彼女が作り出した物語を気に入る。

 癒しの巫女と呼ばれ多くの者から敬愛されていても、フィーナは普通の女の子なので「結婚」の二文字に憧れを抱いているのだろう「結婚」という単語を強調し語っていく。それも心から愛する人との結婚を望み、永遠の愛を誓い合い共に仲良く歩んでいく未来を夢見る。

「どうかしら?」

「いいと思います」

「有難う」

「フィーナ様は、想像力があります」

「でも、長い物語は作れないわ」

「それでも、素晴らしいです」

 フィーナが作り上げたこの話の続きというのは、結末後に愛し合っている主人公とヒロインが結婚し、幸せな家庭を築く。更に二人の間には愛の結晶である可愛らしい子供が生まれ、家族三人で平和になった世界を謳歌するという、万人に好まれる展開といっていいもの。

 確かにこの話が無難な展開で一番シックリ来る話だとダレスは考えるが、いかんせん多くの物語を読んでいるダレスは時に斜めに構えてしまい、万人が好まない展開を想像してしまう。

 物語に登場する主人公とヒロインは、所謂身分違いのキャラ同士。勇者と呼ばれる青年が悪の親玉にさらわれた姫を救いに行くという王道の展開で、特に女性が好んで読む話だとダレスは知っている。

 特にフィーナは主人公に感情移入をしてしまい、悪の親玉に主人公がやられてしまいそうになった時、か細い悲鳴を上げながら心の中で懸命に主人公に声援を送っていたという。また、満身創痍になりながらも悪の親玉に打ち克った時、拍手を送ったと苦笑しながら話す。

 一方ダレスが考えた逆の展開は、二人は結婚どころか結ばれることはない。確かに主人公の勇者は姫を救い出した英雄だが、彼は王家や貴族の一員ではなくごく普通の家庭に産まれた人間。英雄と呼ばれていようが身分の差は明確で、正直姫と一緒になれる立場ではない。
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