魔法がとけるまで

ようやく寒さが和らぎ、今月末には桜の開花が予想されている、ある朝。


「まいど！ニッキューです！」



その声に、私は勢い良く立ち上がった。伊勢原さんの渋い声ではなく、明るく、爽やかな声に胸の高鳴りが止まらない。



ふぅ～っと、深呼吸してから受付に向かった。



「まいど！」



やっぱり…！
声の主は、座間さんだった。



「お久しぶりです…」



「その節は、すみません…ご迷惑をおかけしまして…」



座間さんは…私と過ごした夜を…覚えていない。胸の奥がギュッと痛くなった。



私は首を横に振った。



「またこのエリアを担当できるようになったのでよろしくお願いします」


「記憶は…？」



「おかげさまで元通り」


そう言って笑う座間さんの笑顔は、きっと他の誰かのものだ。



…ギュッ…と痛む。



「ご苦労様です…」