private lover / another view
 岡崎の気持ちに気づいてなかったわけじゃない。



 ―――――俺は最低だ。



 『同情は恋愛の始まり~! 好きなんだ!』


 そんなことを言われて、俺は当然のごとく、毎回否定した。

 毎日毎日同じことを言われると、本当に

 そうなのかもしれないと無意識に疑うようになる。

 その疑惑は明確な根拠もないまま、次第に膨れ上がり、

 真実を押しつぶし、あたかもそれが正しいことのように心を支配する。



 『お前らおかしいよ?』



 屈服するのが腹立たしく、俺は毎回はね除けた。

 他からくる意識に支配される自分がたまらなく弱い存在に思えたから。



 だから、理由が欲しかった。

 自分の気持ちが傾くに値する根拠が。

 もしも俺がそんなつまらないことにこだわらず、

 自分の気持ちを何らかの方法で伝えていたら、

 岡崎美希はそのままでいたかもしれない。



 俺が変えた。



 純真無垢で心の綺麗な女の子だった岡崎美希を、

 つまらない意地とプライドで、俺は汚したんだ。

 廊下で新山にそそのかされた岡崎が、



 『私は星哉一筋だから!』



 と口を滑らせたとき、驚いて声が出た。

 戸惑いは持続して、岡崎の一挙手一投足に心が揺れた。

 新山を励ますその声が、いつか新山を交えずに彩並の名前を呼んで、

 俺の後ろに隠れていたことなどすっかり忘れて、

 手の届かないところへ行くかもしれないと焦った。



 顔を隠して、人の顔色ばかりうかがっていた少女が

 違う男のそばで安堵の微笑みを得るのかと思うと、

 怒りさえも湧いてきた。



 俺は、そんな奴だ。

 英雄気取りの勝手な男で、自尊心の塊だ。



 廊下を歩きながらそんなことを考えていたら、新山が教室を出て行くのが見えた。

 教室の中には、多分岡崎がいる。


 「おはよう」


 案の定、教室に入ると岡崎は俺のところへ来る。

 声を聞くや、激しい負の感情が湧きだし、満ちた。
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