ma cherie *マシェリ*
奥さんはサキの作ったタルトをとてもおいしそうに食べていた。

しばらくすると、佐伯さんが手を上げてオレを呼ぶ。


追加のオーダーだろうか?

そう思い、ふたりのいる席へと向かう。



「このタルトのレシピ、教えてもらえるかな? 彼女がすごく気に入ったみたいなんだ」


佐伯さんの横で奥さんもニコニコと笑って頷く。


「あ……はい。少々お待ちください」



オレはキッチンへ戻ると、ユミコさんにそのことを告げた。


「ごめん。わたし今忙しいねん。サキちゃん! 悪いけど、お願いできる?」


その言葉に悪気はない。

ユミコさんはサキが佐伯さんのことを好きだなんて全く知らないのだから。


だけど、今サキが二人の前へ出なければならないのは、彼女にとっては酷すぎるだろう。


もう泣き出すんじゃないかと、オレは心配しながらサキの方へ視線を向けた。


だけど彼女はオレが考えていた以上にちゃんとプロ意識を持っているようだ。

ユミコさんからの指示を受けるやいなや、すぐに紙にタルトの材料をさっと書き出した。


そんなサキの姿を見て、オレは心の底から尊敬した。




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