ma cherie *マシェリ*

「なんか、自信がないっていうか。いつもマヒロさんばっかり余裕って感じで……。あたしは全部初めてのことばかりで、テンパっちゃって……空回りしてて……」


その時、大きな音とともに、電車がホームに入ってきた。


だから、あたしの言葉はその音にかき消されたかもしれない。


結局、上手く伝えられなかった。


そんな自分が情けなくてハァとため息をついた瞬間。


マヒロさんの腕が伸びてきて、軽く肩を引き寄せられた。


抱きしめるって感じでもなく、あたしの耳に顔を寄せて、マヒロさんは囁く。



「アホ。オレだって余裕なんかねーよ」



そしてパッとあたしの体を離すと、電車に乗った。




呆然とホームにたたずむあたしに軽く手をあげて言う。


「じゃな。親父さんとお母さんによろしく。あ、あとユマちゃんにも」


「う、うん」


そう答えながらもあたしの頭の中には、さっきのマヒロさんの言葉がぐるぐるとめぐる。



『オレだって余裕なんかねーよ』



ほんとに?


マヒロさんもそうなの?

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